第 62 回目は絵本の御紹介です。
【 しあわせなおうじ 】☘️
作 /オスカー・ワイルド氏
監 修/西本 鶏介氏
文 /間所 ひさこ氏
絵 /こみね ゆら氏
町を見下ろす、丸い柱の上に、幸せな王子の像が立っていました。
王子の体は金で被われ、二つの目には青い青いサファイアが、腰に下げた剣の柄には赤い赤いルビーが嵌( は )め込まれていました。
「 王子様は、なんて美しいのだろう! 」
と、町の人達はいつもいうのでした。
ある秋の日の夕方。
一羽のつばめが、風に吹かれて飛んできて、王子の足元に止まりました。
このつばめは、仲間にはぐれ、一人ぼっちで南の国に向かう途中だったのです。
「 今夜は、ここで眠ろう。」
つばめが羽を休めた所に、冷たい水の滴がぽとり・・・。
「 おやっ? 雨かな? 」
つばめが見上げると、そこには悲しそうな王子の姿がありました。
サファイアの目から溢れた涙が、金色の頬を伝って流れ落ちて来ます。
「 あなたは、どなたですか? 」
「 私は、幸せな王子だよ。」
「 では、何故、泣いていらっしゃるのです? 」
「 私が生きていた頃には、涙など流したことは一度もなかった。
でも、今の私には、この町の人達の悩みがよく見えるので、泣かずにはいられないのだ。」
「 ずっと向こうの貧しい家で、病気の男の子が苦しんでいる。
お母さんは働いているけれど、薬も買えないのだ。
つばめさん、つばめさん、私の剣からルビーを抜いて、あの親子に届けてやってくれないか。」
「 ここはとても寒いけれど、一晩だけあなたのお使いをしてあげましょう。」
つばめは王子の剣から抜いたルビーを銜えて、貧しい家に飛んで行きました。
男の子はベッドに横たわり、
お母さんは疲れて眠っています。
つばめは、窓から部屋に飛び込むと、テーブルの上にルビーを置きました。
そして、つばさで男の子の顔を扇いであげました。
「 いい気もち・・・・・。僕、きっと良くなるね。」
男の子は、すやすやと眠りに就きました。
王子の傍に帰ったつばめは、ほうっと優しい気持ちになりました。
「 不思議だなあ。今、僕、とても温かいの。今夜は寒かったはずなのに・・・・・。」
「 それは、良いことをしたからだよ。」
と、王子は微笑みました。
「 つばめさん、さあ、君もお休み。」
次の日、つばめがお別れの挨拶をすると、王子は言いました。
「 お願いだ、もう一日、ここにいて、私を助けてくれないか。
ずっと向こうの屋根裏部屋に、一人の若者が住んでいる。素晴らしい本を書いているのだが、今はパン一切れを買うお金もないのだ。」
「 ではもう一つ、ルビーを届けましょうか? 」
「 もうルビーは無いのだよ。その代わりに、私の目のサファイアを抜いて・・・・・。」
「 そんな酷いこと、僕できません! 」
つばめは泣き出しました 、、、、、、
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美しい幸せな王子様とつばめの物語ですが、どちらも心が優しく、読んでいた私の心まで温かくなりました。冬が到来しても南に渡らず、王子様の為に働いたつばめの姿も美しいですね。この物語は私が小学生の頃に出合った物語だと思うのですが、久々に図書館で出合い、嬉しかったです。
天使が選んだ尊いものとは、正しくそのとおりですね。
Sakuya ☯️
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※ 原本はひらがな表記です。
監修
西本 鶏介氏
奈良県生まれ。昭和女子大学名誉教授。児童文学や児童文化に対する評論、作家・作品論、民話の研究、創作など幅広く活躍。絵本や民話の再話も多い。また坪田譲治文学賞などの選考委員もつとめる。著書は各ジャンルにわたって600冊を越える。近刊の著書に『 まよなかのたんじょうかい 』( すずき出版 )、「 西本鶏介児童文学論コレクション( 全3巻 )」( 第36回巌谷小波文芸賞特別賞受賞/ポプラ社 )などがある。
文
間所 ひさこ氏
東京都生まれ。詩と幼年童話で第1回日本童話会賞を、詩集『 山が近い日 』( 理論社 )で第13回野間児童文学賞推奨作品賞を受賞。著書に『 クリスマスのおきゃくさま 』( 女子パウロ会 )、『 ないしょにしといて 』「 10ぴきのかえる 」シリーズ( 以上、PHP研究所 )、「 ころわん 」シリーズ( ひさかたチャイルド )、『 とんとんとん 』( フレーベル館 )など多数。
絵
こみね ゆら氏
熊本県生まれ。美しいイラストで絵本や挿し絵で活躍する傍ら、人形などの製作もしている。『 さくら子のたんじょう日 』( 作・宮川ひろ/童心社 )で第10回日本絵本賞、『 ともだちできたよ 』( 文・内田麟太郎/文研出版 )で第18回日本絵本賞、『 オルゴールのくるくるちゃん 』( 講談社 )で第47回講談社出版文化賞絵本賞受賞。絵本の作品に『 にんぎょうげきだん 』( 白泉社 )、『 ミシンのうた 』( 講談社 )、挿し絵を手がけた作品に『 四年変組 』( 作・季巳明代/フレーベル館 )など多数。
ひきだしのなかの名作1
しあわせなおうじ
発 行/2016年6月 初版第1刷
発行所/株式会社 フレーベル館
©️ MADOKORO Hisako, KOMINE Yura 2016
Printed in Japan