黒まる entry 63

第63回目は文学( 児童書 )の御紹介です。

 

 

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少年少女

  世界の名作文学7 イギリス編 🍀

 

 

 宝島

  作 者/ロバート・ルイス・スチーブンソン氏

  訳 者/近藤 健( けん )

 

 

  第一章 老海賊

    《 昔の仲間 entry 07の続き 》

   

  ( 三 )“ 黒まる ”と“ 船長の死 ”

 

 その昼頃、僕は冷たい飲み物と薬を持って、 船長 ” の部屋へ行った。血を採られた 船長 は弱ってはいたが、それでも気が立っているらしい目付きだった。僕を待っていた、というように、

「  おいジム、おめえはいい子だよ。ここでまともに相手にできるのは、おめえだけだよ。だからおれはいままで、かわいがってきたんだよ。わかるだろう・・・・。だったらおれに、ラムを一杯持ってきてくれないか。な、頼むよ! 」と、弱々しい声でいった。

でも、先生が・・・・。

 僕が言いかけると 船長 は目をぎょろつかせ、声は低いが、激しく先生の悪口を言い始めた。

だいたい医者なんてやつは、どいつもこいつもばかやろうばかりだよ。あんなやぶ医者に、船乗りのことがわかってたまるもんかい。おれはな、どんな苦しいときだって、ラムで命をつないできたんだぞ。そのラムが飲めねえとなりゃ、おれおめえにたたってやるぞ。あのやぶ医者のばかやろうにもよ。ジム、ほら、おれの指がこんなにもふるえてるだろう・・・・。じっとしていられねえんだよ。」

 なるほど、目の前に翳( かざ )したその手は、小刻みに震えていた。

なあ、ジム。このとおりふるえが止まらねえんだよ。きょうはまだ一滴もやってねえんだからよ。どうしても飲ませねえとなりゃあ、おれはアルコール中毒を起こすぜ。いや、もういくらか起こりかけてるんだ。断っておくが、おれはこれまで、乱暴な暮らしをしてきた男だよ。中毒を起こすとなると、えらい騒ぎを起こすことにもなるんだぜ。なあ、ジム、あの医者だって、一杯ぐらいならなんてこともねえっていったじゃねえかよ。一杯持って来たら、一ギニーの金貨をやるからよ! 」

 まるで、泣かんばかりの頼みようだ。

 僕は、こうまでして頼み込む “ 船長 が、ちょっとばかり可哀想になった。それに、もし暴れられでもしたら、重体の父に障( さわ )りはしないかと心配にもなった。

金なんかいらないよ。でも、一杯だけだよ。それっきりだよ。いいね! 」

 僕は何度も念を押してから、持って来てやった。

船長 は、それを貪るように飲みほすと、いくらか落ち着いた声でいった。

うーん、ちったあよくなったよ。ーーーーところでジム、あの医者は、おれがどのくらい寝てなけりゃならないっていいやがった? 」

せめて、一週間ぐらいといってたよ。

なに、一週間だと・・・・。そんなこたあできねえよ。それまでにゃ、やつらが 黒まる を持ってくるにきまってるよ。ちぇっ、じぶんの分けまえを使いはたして、おれの分まで取ろうなんて・・・・。ろくでなしやろうどもがよ。

 だが、そんな手にひっかかってたまるもんかい。ふん、もう一度、やろうどもにあわをふかしてやらねえと・・・・。

船長 はまた興奮してきた。

「 “ 黒まる ってなんなの、 船長さん ” ? 」

「 呼び出し状だよ。ーーーーけんかの申し込みよ そうだ、いまのうちにおめえに頼んでおこう。いいか、もしおれが、どうにも逃げられねえうちに、やつらから “ 黒まる ” をつきつけられたら・・・・。やつらのねらっているのは、おれのあの箱なんだからな。おめえ、馬に乗れるか ーーーそうか、よし、馬に乗って、あのやぶ医者のところへとぶんだ。

 いまいましい医者だが、しかたがねえ。そして、判事だの、役人だのをみんな集めてくれって話すんだぞ。そうすりゃ、ここへ乗り込んできて、やつらをみんなひっとらえてくれるだろう。ーーーーおれはな、こう見えても、フリント親分の船の副船長だったんだぞ、海の王者と恐れられたフリント親分のよ。ーーーーで、いまでは、あそこを知っているのは、おれひとりなんだ。フリント親分がよ、サバンナで、ちょうどいまのおれみたいに死にかかっているときに、あれを、おれにくれたんだよ。この世にふたつとねえ、たいせつな品物をよ・・・・。だからな、医者のところに知らせに走るのは、やつらが 黒まる を持ってきたか、でなかったら、あの 黒犬 か、 一本足の船乗り ” が姿を現すかの、最後のときの話なんだぞ。それまでは、うっかり行くんじゃねえぞ。ーーーいいな やつらが来たら、すぐ合図をするから、おめえのほうも油断なく見張っていてくれよ。そのかわり、いまにおめえにもきっと、宝をわけてやるからな・・・・。

船長 はその後も、暫く、訳の分からないことを話していたが、その声は段々弱ってきた。

 僕が薬をやると、顔を顰( しか )めて、

ちぇっ、情けねえ。船乗りで薬を飲むなんて、おれぐれえなもんだろ。

 しかし、子供のように素直に飲みほすと、とうとう死んだように眠ってしまった。

 僕は、 船長 の寝顔を見ながら、些( いささ )か後悔した。 船長 の話にでてきたフリントというのは、子供でも知っている有名な海賊だった。だからこの 船長 も、やっぱり海賊だったのだ。すると、そんな秘密を聞いてしまったのだから、僕も、誰かに狙われるのではないだろうか。そんな怖さもでてきた。

 

 

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 倒れてしまってもラム酒が飲みたいなんて、船長のラム酒好きには参りますね。

それはそうと、海賊のフリント親分が、“ 船長 ” にあげたこの世に二つとない品物とは、何なのでしょうか?

  Sakuya ☯️

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次回へ続きます

 

 

 

 

訳者紹介

近藤 健( けん )

大正2年、秋田県に生まれる。

日本児童文芸家協会会員。主な著書に「 はだかっ子 」「 一本道 」等がある。

 

 

少年少女世界の名作文学第7巻 イギリス編

発 行/昭和40年9月20日

発行所/株式会社 小学館

©️ 名作選定委員会