嚥下困難/entry76

第76回目はデータファイル( 医学 )の御紹介です。

 

【 すぐわかる家庭の医学 】

 

 

嚥下困難( えんげこんなん )

 嚥下はほとんど自動的に行われる動きですが、食べ物や水、空気を正しいところへ確実に送るためには、口やのどにおいて筋肉と構造がうまく連携して動かなければなりません。

 中咽頭( ちゅういんとう )とよばれる部分の軟口蓋( なんこうがい/口蓋の後方の筋肉部分 )のすぐ奥で、経路は空気を通す気管と食べ物や水を通す食道の2つの管に分かれます。喉頭( 音声器官 )は気管の最上部にあり、喉頭蓋とよばれる軟骨に保護されています。喉頭蓋は、跳ね上げ戸のような構造をしていて、食べ物や水が気管に入るのを防ぐ役割をしています。つまり人が物を飲み込む時、この喉頭蓋が瞬時に喉頭と気管を塞いで食べ物が入るのを防ぎます。

 嚥下時の不具合や痛みは、たいていは単純な咽頭炎( いんとうえん )の症状です。もっと重大な原因では、のどに物が詰まっていることがあり、特に幼児に多くみられます。長く続く嚥下困難は、医師の診察が必要な疾患の危険信号の場合があります。

 

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嚥下は窒息しないように、口およびのどの筋肉と構造がうまく連携して働かなければならない。


 

嚥下困難の原因

・不安

 不安を感じることはだれにでもありますが、しかし人によっては不安が広がって正常な身体機能を妨げられる場合もあります。この場合の症状には、口内乾燥や嚥下困難、心拍数の増加、恐怖心などがあります。極端な例になると、不安がパニック発作に発展します。パニック発作の特徴は過呼吸と恐怖で身がすくんだ状態になることです。

 

ジフテリア

 ジフテリアは感染力の高い感染症で、のど・皮膚・心臓・中枢神経系をおかし、治療が遅れると重症化し、死に至る場合もあります。しかし、ジフテリアワクチンの予防接種で容易に防ぐことができるので、幼少期に接種を開始するようにします。この疾患の初期症状には、咽頭痛・嚥下困難・微熱・頚部( けいぶ )リンパ線の腫れなどがあります。その後、気道が塞がれ、呼吸困難を起こし、さらに重篤( じゅうとく )になると窒息やショックが起こる可能性もあります。

 

・口内乾燥

 唾液腺からの分泌が減少すると食べ物を飲み込むことが困難になります。口内感染の原因には、唾液腺の感染症、分泌腺に対する自己免疫反応・頭部またはのどの放射線療法・精神的過緊張などがあります。口内乾燥は、一般的な薬剤の多くで生じる副作用でもあります。

 

・食道狭窄( しょくどうきょうさく )

 食道に炎症が起こると瘢痕( はんこん )や食道狭窄( 食道の一部が狭くなって食物が通りにくくなる病状 )が発生するため、嚥下の妨げになります。原因としてはさまざまな感染症のほか、胃液が食道に逆流する逆流性食道炎などがあります。飲み込む力の低下は突然起こることもあれば、徐々に進行することもあります。ほかには、食後の口または胸の痛み・唾液増加・呼吸ひっ迫・嘔吐などの症状がみられます。過食症( 食欲異常亢( こう )進 )とよばれる摂食障害の患者は、大量に食べたあとに自己誘発嘔吐を繰り返すため、食道に炎症を起こして瘢痕ができる場合があります。嚥下困難または嚥下不能となる食道の奇形を先天的に持つ乳児が生まれる場合もあります。このような場合、乳児を死亡させないために、迅速に矯正手術を行う必要があります。

 

食道がん

 食道がんは、通常、食道原発性に多いですが、ほかから転移してできる場合もあります。主な症状は、嚥下困難または嚥下時の痛み、急な体重減少、血液の混じった粘液の吐き戻しです。生存には、初期に診断し、積極的な治療を行うことが不可欠です。

 

・重症筋無力症

 この疾患の特徴は、筋肉、特に顔と頭の筋肉の機能が低下し、それが進行することです。症状はおかされた筋肉の疲労増加に、まぶたの垂れ下がり・復視( ものが二重に見えること )・正常な顔表情の欠落・嚥下や、呼吸・会話などの困難が伴います。

 

・のどの感染症

 のどの炎症や感染症は、細菌・ウイルス・カビなど種々の生物が原因となります。痛み、嚥下困難などの症状があり、これらは原因によって、徐々にあらわれたり速やかにあらわれたりします。のどの感染症には、連鎖球菌性咽頭炎のように、治療が遅れると重症になるものもありますが、風邪やインフルエンザに伴ってよく起こる咽頭炎などは、原因となるウイルス疾患が治ると自然に回復します。

 

扁桃

 扁桃はのどの奥にあるリンパ組織の小さな塊です。副鼻孔・口・のどの感染症が身体のほかの部分に広がるのを防ぐ役割があります。しかし、扁桃自身が感染して、腫れ・のどの痛み・嚥下困難・悪寒・発熱・あごの両側にあるリンパ節の腫れ( 片側または両側 )を引き起こす場合があります。

 扁桃炎が最も多くみられるのは小児です。扁桃に隣接する組織が感染し、膿瘍を形成する場合( 一般に扁桃周囲炎とよばれる状態 )もあります。この腫れが呼吸気道を塞ぐような場合は窒息するので、生命に関わる恐れがあります。

 

 

嚥下困難についてのアドバイス

◉ 話すことができないなど窒息の兆候が見られたら、ただちに詰まっているものを取り除くための応急処置( ハイムリック法 )を行ってください。

◉ 嚥下困難が続くかまたは悪化する場合、早めに医師の診察を受けてください。

◉ 口内乾燥に悩む人は、飲み込みが楽になるように食べる時には液体を多く摂るようにして下さい。

 

 

データは2005年頃のものです。

 

 

 

 

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