~箱の中には何が~ 宝島より/entry77

第77回目は文学の御紹介です。

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少年少女 世界の名作文学7
  イギリス編

 宝 島 ( entry69の続き )
 原 作/スチーブンソン氏
 訳 者/近藤 健( けん )


 ( 四 )“ 船長 ” の衣類箱

 僕は直ぐ、自分の見たことをみんな母に話した。話しているうちに、僕達親子は今とても危険にさらされていることに気が付いた。
船長には宿賃の貸しがある。だから、あの衣類箱の中を調べる権利があるのだが、でも “ 黒犬 ” やめくらの男が狙っているのは、あの箱に間違いない。
“ 船長 ” にいわれていたように、すぐリブジー先生のところへ走ろうかと思ったが、そうすると母が独りぼっちになってしまう。そのあいだに、もし奴らが現れでもしたら・・・・・と思うとそれもできない。
だが、このままでいることはなおできない。床の上には “ 船長 ” の死体が転がっているし、あのめくらの男だって、いつ戻って来るかわからない。
不安でいっぱいの僕達親子は、ストーブの石炭の崩れる音にも時計の振り子の音にも、ひやっとした。
あせる気持ちの中で、僕はやっと一つの方法を思いついた。もうこうなっては、二人一緒に近くの村へ助けを求めに走るしかないだろうーーーーー。
母もそれに賛成した。
もう夕方である。冷たい霧が一面に垂れ籠めていた。
一番近い村は入り江の向こう側で、こっちからは見えないがそれほど遠くはない。それにめくらの男が帰っていった方角と反対なのは、せめてもの幸いだった。
二人は、霧の中を息の続く限り急いだ。急ぎながらも幾度も立ち止まり、振り向いては耳を澄ました。しかし、格別怪しい物音はしなかった。
村に着くと、どの家ももう明かりが灯っていた。そして僕達のただならない様子に、どやどやと集まってきた。
僕は はあはあとせわしい息の中で、できるだけ簡単に理由を話した。
すると、フリント船長という海賊の名は、村の人達もみんな知っていた。みんな恐れていた。だからその生き残りの男達だ、というと、途端に震えだした。
おまけにさっき入り江のところで海賊の船らしいのを見た、と言い出す者や、海賊らしい男達が岬の辺りを確かにうろついていた、という者がでてきた。
これではとても、一緒に家へ行って守ってやろうといってくれる者などいるはずもなかった。
母は情けなさそうな顔でいった。
「 そうですか。あんた達の中で行ってくれる人がいないなら、ジムと私だけでやりますよ。
ええ、やりますとも・・・・・。
私達は家へ戻って、あの箱を開けてみます。
あのならず者には、家賃をだいぶ貸していますからね。父親のないこの子の為にも、それを取り戻しておかなければなりませんからね。ーーーーーおや、クロスリーのおかみさん、あんたのその袋を貸して下さいな。私達の貰い分の金を入れてくるんですよ。余分な金など一文も持ってこないことを見てもらうためにもそのほうが・・・・。」
母のいい方は、まるでやけになっているみたいだった。
辺りは急にざわめきだした。が、しかし一緒に行ってやろうといってくれる人はやっぱりでなかった。
「 さあ、ジム・・・・・。」
するとその時になって、一人の老人と一人の若者が、僕達の前に立った。老人は、僕にピストルを貸してくれた。若者は、リブジー先生のところへなら馬を走らせてやろうと言ってくれた。
それで元気を取り戻して、僕と母はまだ冷たい夜霧の中へ引き返した。
もう月が上りかけていた。まごまごしていると、また引き返してくる時は月の光ですっかり明るくなってしまうだろう。
二人は急げるだけ急いだ。
やっと家に着いて、入り口のドアを閉めるとほっとしたが、しかし問題はこれからである。
僕はすぐ中から鍵をかけた。窓という窓にカーテンをひいた。
母は手探りしながら蝋燭をつけた。
その光の中に、だらしなく倒れている 船長 の死体が浮かび上がった。始めから分かっていたことだが、その不気味さに二人とも思わず声をだした。


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 ジムとジムの母親は勇気がありますね。箱の中には何が入っているのでしょうか?
  Sakuya☯️




訳者紹介
近藤 健( けん )
大正2年、秋田県に生まれる。
日本児童文芸家協会会員。
主な著書に、「 はだかっこ、一本道 」等がある。


少年少女 世界の名作文学7 イギリス編
 発 行/昭和40年9月20日
 発行所/株式会社小学館
 編 者/ ©️ 名作選定委員会