大鷲/entry13

 第13回目は絵画の御紹介です。

【原色日本の美術第30巻 近代の日本画
 著 者/河北 倫明氏


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狩野 芳崖(かのう ほうがい)筆
明治二十一年(一八八八)
絹本墨画
三二五・七 × 二〇六.〇㎝

 明治十七年(一八八四)の第二回絵画共進会に、芳崖氏は『桜下勇駒図』を出品しました。それは褒状を得たものの、十八席という芳しくない成績で、一般からはほとんど注目されることはありませんでした。しかし、米人批評家アーネスト・フェノロサはこの作品の北画風の強い筆力に感心したのです。そして、さっそく当時裏町のあばら家に住んでいた芳崖氏を訪ね、新しい日本の美術のために奮起することを説き、その熱情に感じた芳崖氏は全力をフェノロサ氏の理想とする新日本画形成に捧げました。この逸話には、まことに明治前期の近代日本画草創期にふさわしい劇的なものがあります。
 『大鷲』『悲母観音』同様、芳崖氏最晩年の作で、大鷲が五大洲をつかむという意味を表したものといい、彼と同じ長州出身の総理/伊藤 博文氏に献呈されました。芳崖氏はフェノロサ氏の理想実現のため、伝統的な狩野派が型にはまった表現に陥っていることから、遠く雪洲をはじめとする室町時代の描法にまでさかのぼって、強く鋭い筆線を得るとともに、フェノロサ氏が指摘する色彩や形の、古賀にはない真実さを加えて新画体を作り上げました。この『大鷲』は主題上の意図によって、壮大で強い墨画となっています。芳崖氏の特色がよく表れていて、これと悲母観音を比べてみると、いっそう悲母観音の特色もうかがえます。


発 行/昭和47年8月15日 初版
   /昭和58年3月10日 改訂第5刷
発行所/株式会社 小学館

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